調査方法編

界壁に係る遮音不良(界壁からの透過音)

1.界壁からの透過音とは

界壁(※1)からの透過音は、界壁を介する隣接住戸居室で発生する音(※2)が、界壁を透過・伝搬する空気伝搬音(※3)である。界壁からの透過音Leは、下図に示すように音源室内音Ls、界壁の空気伝搬音遮断性能である透過損失TL、界壁の面積S、受音室の吸音性能A等の要因が影響(※4)し、次式で表される。(参考1、参考2)
Le = Ls – TL + 10log(S/A)

界壁からの透過音の要因図(chord作成)

建基法第30条『長屋又は共同住宅の各戸の界壁』の規定及び品確法告示(参照1)は部位性能である界壁の透過損失TLを対象としている。
ここでは、品確法告示における「透過損失等級(界壁)」を表示し、それが契約内容となっている住宅(界壁の空気伝搬音遮断性能表示住宅)を対象とする。それ以外の場合は、空気伝搬音遮断性能に関する契約上の合意水準を契約内容等に応じ個別に判断して対応する必要がある。
参考1
  • 「建築物の遮音性能基準と設計指針 第二版・1997年」p81 ((社)日本建築学会編)
参考2
  • 「建築設計資料集成  環境 2007」p23 ((社)日本建築学会編)
参照1
品確法告示
  • 平13年国交告第1347号
    評価方法基準
    「第5の8 音環境に関すること8-3透過損失等級(界壁) 」
※1
界壁とは、所有者や利用者の異なる部分の境界に立つ壁、共同住宅や長屋住宅などの各住戸の仕切り壁を言う。(引用1)品確法告示(参照2)では、少なくとも一方が居室である部分を指す。
※2
隣接住戸居室での発生音には、話し声、テレビ・ステレオなどの電気機器による音楽聴取、ピアノなどの楽器演奏音等がある。
※3
想定される紛争としては、界壁の空気伝搬音遮断性能表示住宅において、隣接住戸居室から話声や音楽などが聞こえ、生活に支障が生じている居住者が性能測定を行い、「透過損失等級(界壁)」として表示された等級を満たしておらず欠陥であるというクレームが発生する場合などが考えられる。
※4
隣接住戸居室での発生音は、界壁からの透過音以外に、開口部等を経由する経路からも伝搬(側路伝搬音)してくる。居住者には、界壁からの透過音と側路伝搬音とを合成した音が、隣接住戸からの騒音として認識される。
引用1
  • 「建築学用語辞典 第2版」(1999)p96一部加筆 ((社)日本建築学会編)
参照2
品確法告示
  • 平13年国交告第1347号
    評価方法基準平13年国交告第1347号 「第5の8 音環境に関すること8-3透過損失等級(界壁) 」

2.発生原因

(1)不適切な界壁の設計

界壁の設計段階において、性能評価の対象となった設計内容説明書等に記載された仕様に適合する設計が行われていない場合には、契約内容として合意された界壁の空気伝搬音遮断対策が講じられていないことがある。

(2)不適切な界壁の施工等

躯体工事ならびに仕上げ工事の段階において、設計内容説明書等に記載された仕様に適合する施工が行われていない場合には、契約内容として合意された界壁の空気伝搬音遮断対策が講じられていないということがある。

(3)契約内容との不整合

界壁の空気伝搬音遮断性能表示住宅において、性能評価の対象となった設計内容説明書等に対応する設計及び施工がなされていなかった場合には、契約上合意された界壁の空気伝搬音遮断対策が講じられていないということになる。
また、全居室の界壁の評価結果から最低評価を抽出して表示していない場合は、表示内容の誤りである。
なお、個別の居室の界壁が契約上合意された空気伝搬音遮断仕様通りに施工されているか否かは、評価対象となった設計図書に記載されている当該居室の界壁構造・壁仕上げ構造仕様と実際の施工内容との照合により確認する必要がある。
事前確認等(不具合事象の程度の確認)

調査の視点

  • [音に関する不具合]の末尾に掲載の「事前調査シート」に基づくヒアリング又は現地調査により、発生している界壁透過音等の程度を確認し、居住者が音に関する不具合を認識するに至った状況を整理する。
  • 音に関する何らかの測定を行っている場合には、何を対象としてどのような方法により測定が行われたのか確認する。

調査方法

1.界壁透過音の程度の確認

どのような界壁透過音であるかを確認する。具体的方法としては、事前調査シートによる居住者へのヒアリングや現地調査等により、界壁透過音の程度を確認する。

(1)調査方法

居住者に対して、事前調査シートの質問項目にそった状況の記入を依頼し、界壁透過音等の発生状況(発生条件、程度、時間、その他の関連する要因)を確認する。
可能であれば現地において、界壁透過音の種類や音圧レベル等を調査する。
調査対象室の暗騒音レベルが大きい場合には、界壁透過音等の状況を正しく認識できないので、可能であれば暗騒音レベルが小さくなり、対象音がはっきり聞き取れるような時間帯にも調査する。

(2)注意事項等

  • 音のうるささに対する感覚は個人差が大きいため、状況確認の段階では、音のうるささ等に関するコメントは避け、事実確認のみを行う。
  • 指摘された界壁透過音を耳で聞いて確認するとともに、その音が発生している状態の室内音を、騒音計によるA特性音圧レベルの測定(参考3)等により定量的な確認を行うことが望ましい。必要に応じて専門家に音の調査を依頼する。
参考3
  • 「建築物の遮音性能基準と設計指針 第二版・1997年」p438~447((社)日本建築学会編)

2.性能測定状況の確認

居住場所において音に関する何らかの測定が既に行われている場合、測定結果は、性能表示制度における透過損失等級(界壁)ではないので、何が測定されているのかを確認する。
確認のポイント
 (測定内容の確認)
準拠した規格等(JIS等の基準に準拠した測定方法か)
JIS A 1417-2000「建築物の空気音遮断性能の測定方法」
測定された部位・性能(界壁を介する室間音圧レベル差を測定しているか)
外壁開口部の状態(閉鎖した状態で測定しているか)
 隣接住戸間の空気伝搬音遮断性能測定は、音源室及び受音室の窓は閉め(クレセントも閉める)、換気口の蓋も閉じて測定する。
測定機関
音源スピーカの設置位置、音源側及び受音側の測定位置
測定機器の仕様、雑音発生装置の仕様
測定時の音源室及び受音室の状況(家具・什器などの設置状況)
測定時のその他の状況(暗騒音の程度)など

(1)調査方法

  • 居住者に測定結果報告書等の資料を提出してもらい、測定の実施状況・結果を確認する。また、可能であれば、測定機関へ問い合わせを行い、ヒアリングにより、実施状況を詳細に確認する。

(2)注意事項等

  • 「音源の仕様及び設置方法」がJIS A 1417の付属書1(規定)に規定されているので、測定結果報告書やヒアリングを通して、適正に測定されていたことを確認する。
  • 測定結果は、側路伝搬音及び界壁面積・受音室の吸音性能の影響が含まれた空間性能であるので、部位性能である界壁の透過損失とは異なる。

3.性能表示内容の確認

界壁の仕様と性能表示内容を確認する。

(1)調査方法

居住者に建設住宅性能評価書を提出してもらい、その評価内容、登録住宅性能評価機関を確認する。
必要に応じ登録住宅性能評価機関等に対するヒアリングや住宅紛争処理支援センター経由で評価に要した資料の提出要求を行い、評価した内容を詳細に確認する。

(2)注意事項等

  • 性能評価はあくまでも界壁の対策上の仕様を評価するものであり、完成した住宅居室内で聞こえる音を評価しているものではないことに注意する。

調査結果の考え方

  • この段階では、音環境に対する性能測定の状況や評価内容の確認にとどめ、以降の調査を進める。
  • 界壁を介して隣接する住戸の居住者の発生させる音の及ぼす心理的影響は、設計・施工上の不具合に関わらず、音の発生時刻や居室の暗騒音レベル、隣接する住戸の居住者との人間関係などの様々な要因に左右される(※5)ので、居住者が音に関する不具合を認識するに至った状況等を十分に確認しておくことにより、問題の所在が明らかになりやすい。
  • 音に関する不具合が発生した場合に、測定によって建物の空気伝搬音遮断性能を確認することは、一つの参考となり得るが、測定値はいろいろな要因(※6)によって「値のばらつき」が生じるものであるため、測定値のみによって不具合の原因等を特定することは極めて難しい。
    性能表示制度における透過損失等級(界壁)は、「界壁自体の空気伝搬音遮断性能(部位性能)を評価対象としており、窓等を経由する側路伝搬音の影響が無いとした場合」等の特定の条件において、施工・測定等のばらつきを考慮した上で一定の水準となるよう必要な対策を講じているかどうかを評価するものであるため、実際の住居における空気伝搬音遮断性能の実測値(空間性能)とは直接対応するものではないことに注意する。
※5
暗騒音が低い夜中は特に気になりやすい、隣接住戸の人と日常の交流が少ないほど気になりやすい、自分の出せない種類の音ほど気になりやすい など
※6
測定機器の誤差、測定技術の熟練度、測定条件の設定、室内の状況(家具、什器等の設置状況)など


使用する検査機器

  • 騒音計(オクターブバンドフィルター付き)
界壁の設計内容の確認

  • 評価対象となった設計内容説明書等に記載された仕様に適合するものであるかを確認する。

調査方法

1.界壁の性能表示内容の確認

設計住宅性能評価の対象となった設計内容説明書等の内容及び評価結果を確認する。
確認のポイント
評価方法(評価基準によるものか、特別評価方法認定によるものか)
評価基準による場合は、以下の事項
  • 界壁の構法、厚さ、面密度
  • 界壁の仕上げ構造の種類・仕様
  • 界壁の欠き込みの有無及び位置
  • 建基法30条で規定する認定番号等
特別評価方法認定の場合は、認定番号等

(1)調査方法

  • 対象界壁の評価方法を確認する。
  • 設計内容説明書等を用いて、上記<確認のポイント>に沿って、壁構造(界壁の構法、面密度・厚さ)や壁仕上げ構造の種類・仕様、界壁の欠き込みの有無及び位置等、認定の評価基準通りであることを確認する。
  • 特別評価方法認定の場合は、仕様通りであることを確認する。

(2)注意事項等

  • 特になし
参照3
品確法告示
平13年国交告第1347号
評価方法基準
「第5の8 音環境に関すること8-3透過損失等級(界壁)」

調査結果の考え方

  • 性能評価の対象となる界壁構造及び壁仕上げ構造の設計仕様は、評価基準上示されている仕様又は基準に適合する測定方法により性能を検証した仕様とする必要がある。よって、当該仕様等と実際の設計仕様等が異なる場合は、設計住宅性能評価申請内容と実際の設計内容が異なっているか、又は申請内容自体の誤りのいずれかと考えられる。


使用する検査機器

  • 特になし
界壁の施工状況等の確認

調査の視点

  • 対象界壁に適用された界壁構造、壁仕上げ構造が評価基準または特別評価方法認定に適合する仕様、施工方法により施工されているかを確認する。
  • 設計内容説明書等に適合する仕様、施工方法により当該界壁が施工されているかを確認する。

調査方法

1.書類による確認

設計住宅性能評価の対象となった設計内容説明書等に記載された界壁構造・壁仕上げ構造の仕様と一致するよう施工されているかを確認する。
確認のポイント
  (界壁の構造)
構法
界壁の断面形状・欠損(コンセントボックス等の有無・位置)
界壁の仕上げ材・仕様(厚さ、面密度、対応する型式、JIS規格、JAS規格等)
界壁への仕上材の施工方法

(1)調査方法

  • 施工記録等(施工図、工事状況報告書、工事写真等)により上記<確認のポイント>に沿って、把握できる範囲において対象界壁の構造・壁仕上げ構造の施工内容を確認する。

(2)注意事項等

  • 壁仕上材の施工方法は性能に大きく影響する。そのため設計内容説明書と実際との対応性を詳細にチェックする。

2.目視等による施工状況等の確認

(1)調査方法

  • 設計住宅性能評価の対象となった設計内容説明書等に記載された設計仕様と実際の施工状況が一致しているか、不適切な施工が行われていないかを、目視・測定等により確認する。
  • 不適切な箇所が発見された場合には、写真等で記録をとる。確認した結果を、設計図書(図面、仕様書)等と照らし合わせて対応性を検証する。

(2)注意事項等

  • 特になし

調査結果の考え方

  • 次のいずれかの事項について、設計通りの施工が行われていない場合、又は不適切な施工が行われている場合は、界壁の空気伝搬音遮断性能に不良が発生している可能性が高い。
    (界壁の構造)
    構法
    界壁の断面形状・欠損(コンセントボックス等の有無・位置)
    界壁の仕上げ材・仕様(厚さ、面密度、対応する型式、JIS規格、JAS規格等)
    界壁への仕上材の施工方法

  • 界壁構造及び壁仕上げ構造の施工内容が界壁透過音対策に関する評価基準に該当する界壁構造・壁仕上げ構造の仕様(すなわち性能評価の対象となった設計内容説明書等の仕様)と異なる場合は、界壁の契約内容として合意された隣接住戸からの透過音を遮断するための対策が講じられていない可能性が高い。


使用する検査機器

使用・メンテナンス状況の確認

4 使用・メンテナンス状況の確認」による。

外的要因の確認

5 外的要因の確認」による。

詳細調査の必要性の検討

6 詳細調査の必要性の検討」による。