調査方法編

振動

1.振動とは

振動とは、建物の全体または一部の床が揺れ動くことをいう。
振動の方向により、鉛直振動と水平振動に分けられる。

また、振動はその発生原因により、交通振動、機械振動、歩行振動、自然発生的な風などによる振動に分けられる。(地面は交通機関や風などの影響を受け常に振動している:常時微動)
交通振動は、例えば近隣の道路を通過する自動車による振動や、線路を通過する電車による振動、近隣に空港がある場合の飛行機の滑走による振動である。
機械振動は、近くにある機械のモーター等による振動である。
歩行振動は、人が建物内部を歩行することにより生じる振動であり、主に床の面外の剛性不足等により引き起こされる鉛直振動である。
自然発生的な風などによる振動は、建物に外力として作用する主として水平力によって生じる振動である。
交通振動も機械振動もその原因がはっきり特定できること、さらに、交通振動は立地により影響される特殊なものであること、機械振動は大きな振動を発生させる機械自体を取り替えたり、機械の周りに防振措置を施すなど(設備における防振設計)により比較的容易に対処可能である。
また、常時微動は、適切な設計・施工が行われた建物でも発生するものである。
本論では、歩行振動および自然発生的に風により生じる振動(水平振動)を対象とする。(「水平振動」は各構造の調査方法編を参照のこと)
参考1
  • 「建築物の振動に関する居住性能評価指針・同解説 (2004)」 p5((社)日本建築学会 編集・発行)
参考2
  • 「新建築学大系35荷重・外力」p291(新建築学大系編集委員会編集、(株)彰国社発行)
一定以上の振動による障害には3通りの形態がある。
まず一つは建物の部材に破損などの耐力上の障害が生じること、二つめは機械装置類に機能上の障害が現れること、そして三つめは、居住性の悪化など人体に感覚上の障害を引き起こすことである。
前二つの障害は、対象物の振動特性、強度などを検討して、工学的判断から評価することが可能である。しかし、三つめの障害には個人の感覚の指標が入るため、物理的なデータのみで振動を評価しても、心理的要素や個人差を考慮できないために正確な評価とはなりにくく、汎用的に振動障害を評価し得る指標を定めることが困難である。
振動感覚評価の研究によると、振動感覚の影響要因としては、以下の5つの要素があげられている。
振動数
振動方向
継続時間
姿勢(伏臥姿勢の場合が最も大きく感じられる)
環境(静寂な環境では振動が大きく感じられ、喧騒な環境では振動は小さく感じられる傾向にある)
評価尺度には、振幅と振動数の二元的な表し方のほかに、1985年にISO PART2として規定された、1/3オクターブバンドの中心振動数(Hz)と加速度実効値(m/s2)と場所や時刻ごとの環境係数を組合せた振動感覚評価等がある。
参考3
  • 「新建築学大系35荷重・外力」 p292(新建築学大系編集委員会編集、(株)彰国社発行)
参考4
  • 「新建築学大系38構造の動的解析」p13(新建築学大系編集委員会編集、(株)彰国社発行)
環境係数
場所 時刻 連続または断続の振動繰返しの衝撃 1日数回程度の衝撃振動
精密作業区域 昼、夜 1 1
住宅 2~4 60~90
1.4 1.4~20
事務所 昼、夜 4 128
作業所 昼、夜 8 128

振動感覚のISO基準値(建物居住性を対象1985年案)(引用1)

本図は、環境係数1の場合の許容限界(基準曲線)を示す。音の場合と同じように振動感覚にも周波数特性があり、図中の各曲線は、水平振動、垂直振動、水平+垂直振動時の等感曲線をあらわしている。
曲線より下の範囲が許容される振動(1/3オクターブバンド中心振動数に対応する加速度実効値としてあらわす)の範囲となる。環境係数が高くなると許容限界値は上昇し、1/3オクターブバンド中心振動数に対応する許容加速度実効値は高くなる。

振動を示す指標には、建物の振動特性を表す固有周期、固有モード(固有振動形)および減衰定数がある。
引用1
  • 「新建築学大系35」 p297(新建築学大系編集委員会編集、(株)彰国社発行)
固有周期と固有モードは、建物の重量(質量)と剛性から決まり、剛性の低い建物ほど振動しやすく、さらに自重に対する外力の比が大きくなるほど、振動しやすい。従って、質量が大きく剛性の高い鉄筋コンクリート造の住宅の振動問題は少なく、軽量で比較的剛性の低い木造や鉄骨造の住宅は振動問題が起こりやすい。
また、減衰定数は減衰力の大きさを表す定数であり、減衰力の大きさは変形速度に比例するため、木造軸組工法のようにいくつかの部材の組み合わせで構成された構造の場合には、各接合部などで減衰力が働き、床振動の減衰定数は比較的大きな値となる。
参考5
  • 「新建築学大系35」(新建築学大系編集委員会編集、(株)彰国社発行)