調査方法編

水平振動

1.水平振動とは

水平振動とは、建築物全体が水平方向に揺れ動くことをいう。
居住環境としての性能を維持する観点では、強風によって建築物に生ずる水平振動を対象とする。(参考1)
水平振動の発生(参考2)は、建物の剛性(かたさ)との相関があることから、発生原因を考える上では、水平方向の荷重に対する建物の剛性を確認することになる。
参考1
  • 「建築物の振動に関する居住性能評価指針・同解説 (2004) 」((社)日本建築学会編集・発行)

2.発生原因

(1)
適切な設計・施工でも通常起こり得る軽微な水平振動
適切な設計・施工が行われていても、許容される水平方向の層間変位内の軽微な水平振動が発生することがある。
(2)
基礎の沈下
基礎が何らかの理由で沈下した場合、これに連動して水平振動が発生することがある。(基礎の沈下の発生原因は「基礎の沈下」を参照)
(3)
不適切な基礎・軸組・床の設計
軸組の設計段階において、以下の事項に不適切な点がある場合には、水平振動が発生することがある。
軸組および床構成部材等の断面寸法等
軸組および床構成部材等の材料の選択(木材の樹種等)
軸組および床構成部材等の配置・支持間隔
軸組および床構成部材等の架構・接合方法
耐力壁量・配置、準耐力壁等(腰壁等)の量
水平構面の剛性確保の仕様
木材の基準強度
(4)
不適切な基礎・軸組・床組の施工等
木工事の段階において、以下の事項に不適切な点がある場合には、水平振動が発生することがある。
(材料)
軸組および床組構成部材等の断面寸法等
軸組および床組構成部材等の材料の選択(木材の樹種等)
軸組および床組構成部材等の材料の品質(木材の乾燥状況等)
(施工)
軸組および床組構成部材等の配置・支持間隔
軸組および床組構成部材等の架構・接合方法
耐力壁量・配置、準耐力壁等(腰壁等)の量
水平構面の剛性確保の仕様
木材の基準強度
参考2
  • 「新建築学大系35荷重・外力」p291(新建築学大系編集委員会編集、(株)彰国社発行)
事前確認等

調査の視点

現場調査等にさきがけて、発生原因特定のための調査に必要な情報を把握し、調査の進め方の詳細等を検討しておく。

調査方法

  1. 居住者及び住宅供給者へのヒアリング並びに次の「2.」により、主として以下のような情報を確認し、整理しておく。
    住宅の構造・建て方、契約の内容等(木造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造/戸建、集合 等)
    不具合事象の状況、発生部位、施工の状況等
    不具合事象の発見時期(新築後経過年数)
    不具合事象の程度の進行状況
    不具合事象の発生と季節・天候等との相関関係
    他の種類の不具合事象の発生状況
    周辺の住宅における同様の不具合事象の発生状況
    住宅の立地条件(気候・地形等)、近隣の状況
    不具合事象の発生後の処置の有無及び状況
  2. 住宅性能表示制度に基づき、建設住宅性能評価書が交付された住宅の申請図書等は、規定された期間、登録住宅性能評価機関等に保存される。
    したがってその保存期間内であれば、それらの申請図書等を、住宅紛争処理支援センターを経由して当該評価機関等から取り寄せることが可能である。
    (1)
    登録住宅性能評価機関に保存される帳簿は、以下の通りであり、業務の全部を廃止するまで保存される。(品確法第19条第1項、同法施行規則(以下「規則」という。)第20条第1項三号)
    住宅性能評価書に記載した事項を記載した帳簿
    (2)
    登録住宅性能評価機関に保存される図書は、以下の通りであり、建設住宅性能評価書が交付された日から20年間保存される。(品確法第19条第2項、規則第21条第1項・第3項、第15条第1項第一号ロ)
    建設住宅性能評価申請書(変更建設住宅評価申請書を含む)
    建設住宅性能評価申請書の添付図書
    • 設計住宅性能評価書
    • 設計評価申請添付図書
      住宅性能表示制度に基づく認定又は認証を取得した住宅又は住宅の部分については、以下の書類が添付される。
      * 住宅型式性能認定書の写し
      * 型式住宅部分等製造者等認証書の写し
      * 特別評価方法認定書の写し
      * 建築基準法に基づく確認済証
    施工状況報告書
    規則第6条第4項に規定する図書
    検査に際し評価機関が評価申請者に提出させたもの
    (3)
    登録住宅型式性能認定等機関、登録外国住宅型式性能認定等機関、登録試験機関又は登録外国試験機関に保存される図書は、以下の通りであり、認定又は認証が失効した又は取り消されたときから20年間保存される。(規則第68条第3項、規則第94条第3項)

    <住宅型式性能認定の場合>(規則第68条第1項第一号)

    住宅型式性能認定申請書
    住宅型式性能認定申請書の添付図書
    住宅型式性能認定書の写し
    その他審査の結果を記載した書類

    <型式住宅部分等製造者の認証(更新)の場合>(規則第55条第1項第二号(第三号))

    型式住宅部分等製造者等認証(更新)申請書
    型式住宅部分等製造者等認証(更新)申請書の添付図書
    型式住宅部分等製造者等認証書の写し
    その他審査の結果を記載した書類

    <特別評価方法認定の場合>(規則第94条第1項、第82条第1項)

    特別評価方法認定のための審査に係る試験申請書
    特別評価方法の概要を記載した書類
    特別評価方法により代えられるべき部分を明示した書類
    平面図等その他の試験を実施するために必要な事項を記載した図書
    試験の結果の証明書の写し
    その他審査の結果を記載した書類
    上記資料に基づき、住宅の性能表示項目に関して調査する場合には、該当する等級毎の基準を参照する。
    なお、評価方法基準の詳細については、平13国交告第1347号による。
  3. 以上の情報に基づき、調査の方法・進め方の詳細等を検討しておく。
不具合事象の程度の確認

調査の視点

  • 適切に設計・施工された住宅であっても、建築基準法で許容される水平方向の層間変位内の軽微な水平振動は発生することがある。
  • ヒアリングまたは現場調査により、発生している水平振動の程度を確認する。

調査方法

1.水平振動の程度の確認

どの程度の水平振動であるかを確認する。具体的方法としては、居住者へのヒアリングや現地における現地調査、現場調査を行う。

(1)調査方法

居住者に水平振動の発生する状況(発生条件、時間、天候、その他の関連する要因)を確認する。
現場調査を実施し、水平振動の状況を確認する。
周囲の騒音や交通振動、機械振動等が激しい場合には、水平振動の状況を正しく認識できないので、振動が激しく感じられるような状況の時(強風時、外の静かな時間等)にも体感する。

(2)注意事項等

  • 振動感覚評価の研究によると、振動感覚の影響要因としては、以下の5つの要素があげられている。このうち②~⑤については、上記により確認できる。①は、測定するために測定機器等を必要とするものであるが、床振動の状況は、建物の振動特性を表す加速度の状況を併せた6つの要因を確認することが必要になる。
    振動数(または固有周期)
    振動方向
    継続時間
    姿勢(伏臥姿勢の場合が最も大きく感じられ、次いで座位、立位の順に小さく感じられる。)
    環境(静寂な環境では振動が大きく感じられ、喧騒な環境では振動は小さく感じられる)
    加速度(最大加速度)
  • また、精緻な水平振動の評価は、水平振動の応答波形から振動数、振動振幅、減衰定数を求めて、参考とすべき評価曲線に照合することによるため、一般には難しく、専門的な機関に依頼する必要がある。
参考3
  • 「建築物の振動に関する居住性能評価指針・同解説」(2004)((社)日本建築学会編集・発行)

調査結果の考え方

  • 現場調査により確認された水平振動を定量的かつ客観的に評価する指標はないため、この段階では、不具合事象の程度を感覚的に捉えるにとどめ、以降の調査を進める。

使用する検査機器

  • 特になし
基礎・軸組・床の設計内容の確認

調査の視点

  • 水平荷重に対する剛性を確認するため、軸組が適切に設計されているかを確認する。

調査方法

1.基礎・軸・床の設計内容の確認

確認のポイント
軸組および床構成部材等(※)の断面寸法等(a.d.f.i.※3)
軸組および床構成部材等(※)の材料の選択(木材の樹種等)(e.h.k.☆1.※1.※3)
軸組および床構成部材等(※)の配置・支持間隔(b.g.☆1.※1.※3)
軸組および床構成部材等(※)の架構・接合方法(c.j.☆1.※1.※3)
耐力壁量・配置、準耐力壁等(腰壁等)の量(b.g.☆1.※1)
水平構面の剛性確保の仕様(☆1.※1)
木材の基準強度(e.h.k.)
(※)
仕上材・下地材・土台・大引き・根太・床束・根がらみ貫。

(1)調査方法

  • 当該住宅の設計図書(設計図、仕様書等)を対象として、上記<確認のポイント>に沿って各部材の断面寸法、部材の配置等が適切であるかを確認する。なお、適切であるかの検討にあたっては、関係法令告示、建設住宅性能評価関連図書等により、また住宅金融支援機構編集「木造住宅工事仕様書」、日本建築学会「木質構造設計規準・同解説」、 (財)日本住宅・木材技術センター編集「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」、その他の仕様書、基準等が参考となる。
  • <確認のポイント>に沿って、主な項目を以下に列記する。
    軸組および床構成部材等の断面寸法等
    • 通し柱、管柱、筋かい等(a.f.☆1.☆2、※1.※2.※3)
    • 大梁、小梁、土台、大引き、根太等(d.i.※3)
    • たわみ制限(d.i.)
    • 許容応力度計算結果またはその結果に基づくスパン表への適合(☆1.※1.※3)
    軸組および床構成部材等の材料の選択
    • 許容応力度計算結果またはその結果に基づくスパン表への適合(☆1.※1.※3)
    • 材料の基準強度(構造計算時)(e.h.k.)
    • 耐久性、木材の品質
    • 準耐力壁等の材料(☆1.※1)
    • 土台の防腐防蟻措置(☆2.※2)
    • 外壁軸組の防腐措置(☆2.※2)
    • 浴室・脱衣室の軸組の防水措置(☆2.※2)
    • 外壁の軸組の防腐防蟻措置(☆2.※2)
    軸組および床構成部材等の配置・支持間隔
    • 通し柱・管柱の配置・間隔等(☆1.※1.※3)
    • 間柱の間隔等(b.g.☆1.※1)
    • 大梁、土台、大引き、根太の配置・支持間隔(☆1.※1.※3)
    軸組および床構成部材等の架構・接合方法
    • 柱や筋かいの欠込み位置
    • 基礎と土台の緊結方法(☆1.※1.※3)
    • 筋かいの入れ方(角度)
    • 土台の継手位置(☆1.※1.※3)
    • 筋かい端部の接合部と柱端部の接合部(c.j.☆1.※1)
    • 通し柱と胴差の接合部と水平構面外周横架材の接合部(☆1.※1)
    耐力壁量・配置、準耐力壁量等(腰壁等)の量
    • 必要壁量の確保(b.g.☆1.※1)
    • 耐力壁のバランスの良い配置(特に増改築後)(b.g.☆1.※1)
    • 準耐力壁等の量(☆1.※1)
    • 耐力壁線の相互の間隔(☆1.※1)
    水平構面の剛性確保の仕様
    • 火打ち材の設置(☆1.※1)
    • 存在床倍率に応じた床組の仕様(☆1.※1)
    木材の基準強度(e.h.)

(2)注意事項等

  • 3階建の場合には壁量計算ではなく、建基法令第82条の許容応力度計算が必要である。
  • 軸組は多くの部材で構成されており、構造安全性の確認には専門家の助言を得る必要がある。
  • 基礎・土台等の腐朽・劣化により、水平振動が発生する恐れがあるので、注意する必要がある。
建築基準法関連
a.
建基法令第43条1項、2項
b.
建基法令第46条4項
c.
建基法令第47条1項
d.
建基法令第82条の6第2号
e.
建基法令第89条
f.
平12建告第1349号「木造の柱~」
g.
平12建告第1352号「木造建築物の軸組の設置の~」
h.
平12建告第1452号「木材の基準強度~」
i.
平12建告第1459号「建築物の使用上の支障が起こらないこと~」
j.
平12建告第1460号「木造の継手及び仕口の~」
k.
平13国交告第1024号「特殊な許容応力度及び特殊な材料強度を定める件」
品確法告示
☆1
平13国交告第1347号「評価方法基準」第5の1「構造の安定~」
☆2
平13国交告第1347号「評価方法基準」第5の3「劣化の軽減~」
参照
※1
「2015年版木造住宅のための住宅性能表示(構造編)」第5版((公財)日本住宅・木材技術センター企画・発行)
※2
「2015年版木造住宅のための住宅性能表示(基本編)」第5版・劣化の軽減((公財)日本住宅・木材技術センター企画・発行)
※3
「木造軸組工法住宅の横架材及び基礎のスパン表[増補版]」 (2012)((財)日本住宅・木材技術センター発行)
参考4
  • 「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」2008年版((財)日本住宅・木材技術センター編集発行)
参考5
  • 「木造住宅工事仕様書 平成28年版」p76(5) ((独)住宅金融支援機構編著、(株)井上書院発行)
参考6
  • 「木質構造設計規準・同解説」(2006)-許容応力度・許容耐力設計法((社)日本建築学会編集・発行)

調査結果の考え方

  • 次のいずれかの事項について適切な設計が行われていない場合は、水平力に対して軸組、壁の耐力が十分得られないことが原因で水平振動が発生している可能性が高い。
    軸組および床構成部材等の断面寸法等
    軸組および床構成部材等の材料の選択(木材の樹種等)
    軸組および床構成部材等の配置・支持間隔
    軸組および床構成部材等の架構・接合方法
    耐力壁量・配置、準耐力壁等(腰壁等)の量
    水平構面の剛性確保の仕様
    木材の基準強度
  • 「⑥水平構面の剛性確保の仕様」について、適切な設計が行われていない場合は、水平構面が柔らかく、一部の軸組、耐力壁に外力が集中することが原因で水平振動が発生している可能性が高い。

使用する検査機器

  • 特になし
軸組の施工状況等の確認

調査の視点

  • 水平荷重に対する剛性を確認するため、軸組が適切に施工されているかを確認する。

調査方法

1.書類による確認

確認のポイント
軸組および床組構成部材等の断面寸法等
軸組および床組構成部材等の材料の選択(木材の樹種等)
軸組および床組構成部材等の材料の品質(木材の乾燥状況等)
軸組および床組構成部材等の配置・支持間隔
軸組および床組構成部材等の架構・接合方法
耐力壁量・配置、準耐力壁等(腰壁等)の量
水平構面の剛性確保の仕様
木材の基準強度

(1)調査方法

  • 施工記録等(施工図、工事状況報告書、工事写真等)および建設住宅性能評価関連図書等により上記<確認のポイント>に沿って、把握できる範囲において、軸組工事が設計通りに行われているかを確認する。なお、設計図書に記載されていない部分については、住宅金融支援機構編集「木造住宅工事仕様書」、日本建築学会「木質構造設計規準・同解説」、その他の仕様書、基準等を参考に、施工が適切に行われているかを確認する。

(2)注意事項等

  • 特になし
参考7
  • 「木造住宅工事仕様書 平成28年版」p76(5) ((独)住宅金融支援機構編著、(株)井上書院発行)
  • 「木質構造設計規準・同解説」(2006)-許容応力度・許容耐力設計法((社)日本建築学会編集・発行)

2.目視等による施工状況等の確認

(1)調査方法

  • 書類により確認した内容と実際の施工状況が一致しているか、不適切な施工が行われていないかを、目視・測定等により確認する。
  • 不適切な箇所が発見された場合には、写真等で記録をとる。確認した結果を、設計図書等と照らし合わせて確認する。
  • 小屋裏は、押入天袋等の小屋裏点検口から目視等により確認する。
  • 床下は床下点検口の他、必要に応じて和室や押入等の床板を取り外し、目視等により確認する。

(2)注意事項等

  • 特になし

3.筋かい検出器による筋かいの施工状況の確認

(1)調査方法

  • 必要に応じ、筋かい検出器を外壁にあて、壁体内の筋かいの有無および位置・向きを確認し、設計通りに筋かいが設置されているかを確認する。

(2)注意事項等

  • 特になし

調査結果の考え方

  • 次のいずれかの事項について、設計通りの施工が行われていない場合または不適切な施工が行われている場合は、水平力に対して軸組や壁の耐力が十分得られないことが原因で水平振動が発生している可能性が高い。
    軸組および床組構成部材等の断面寸法等
    軸組および床組構成部材等の材料の選択(木材の樹種等)
    軸組および床組構成部材等の材料の品質(木材の乾燥状況等)
    軸組および床組構成部材等の配置・支持間隔
    軸組および床組構成部材等の架構・接合方法
    耐力壁量・配置、準耐力壁等(腰壁等)の量
    水平構面の剛性確保の仕様
    木材の基準強度
  • 「⑦水平構面の剛性確保の仕様」について、設計通りの施工が行われていない場合または不適切な施工が行われている場合は、水平構面が柔らかく、一部の軸組や耐力壁に外力が集中することが原因で、水平振動が発生している可能性が高い。

使用する検査機器

使用・メンテナンス状況の確認

4 使用・メンテナンス状況の確認」による。

外的要因の確認

5 外的要因の確認」による。

詳細調査の必要性の検討

6 詳細調査の必要性の検討」による。